「愛知県人会が好きだ」
私は愛知県人会が好きだ。何も愛の告白をしている訳ではないが、私は愛知県人会が好きで好きでたまらない。その理由を考えてみると、素晴らしい人達との出会いがあったからだと思う。
私と愛知県人会との出会いは、NYに赴任してまだ間もない頃だった。当時赴任したばかりで、NYの右も左も分からない生活を送っていた。何を隠そう私は愛知県外で一度も生活したことがなく、愛知県外で初めて生活したのがNYだった。ご存知のようにニューヨーカーの話す英語はとても早く、また文化や環境が違うので日々ストレスを感じて生活していた。何とも言えない不安から疲労困憊し、夜なかなか寝付けない日々を送っていた。
そんな時、ある新聞で愛知県人会の開催記事を見つけた。最初は参加しようか否か迷っていたが、変化を求め参加することにした。その時の県人会は参加者が少なく私と妻を含めて総勢7名。緊張した雰囲気の中で県人会がスタートしたが、数分も経たないうちに不思議と皆さんと打ち解けることができた。話題は愛知県の地元ネタ、ドラゴンズ優勝ネタなど様々にのぼった。楽しくて楽しくて、NYに来て以来初めて心の底から大声で笑ったことを鮮明に記憶している。というのも参加者が皆それぞれ独特の個性をもっていたのが理由だと思う。
例えば、Kさん。NYで長く生活しているにもかかわらず名古屋弁及び三河弁を非常に流暢に操り、更には親父ギャグを速射砲のように繰り出す特殊能力を備えている。終始、場の雰囲気を感じ取り、皆を笑いの渦の中へと引き込んでいた。途切れることのない Kさん以外のメンバーも近代稀に見る驚くべき個性を持っており、度肝を抜かれた。以来、その時のメンバーの顔が楽しい思い出とともに脳裏に焼き付き、日々それが思い出され、私をとても愉快な気持ちにさせてくれている。ただ、嬉しい悩みとでも言えば良いのだろうか、夜、床に付く際、メンバーの
顔が思い浮かぶと、皆さんの強烈な個性が思い出され、夜なかなか寝付けなくなってしまう。
実は、先に挙げさせて頂いたKさんと私とは意外な繋がりがあった。私の大学時代の恩師の恩師の恩師がKさんだったのだ。世の中、広いようで狭いのかもしれない。愛知県内で会うことがなかったのに、地球の裏側に来て出会うことになろうとは夢にも思わなかった。また、このKさんとは後に意外なところで再会した。
ある日、日本へ帰国する母親を見送るため、私は妻と共にJFK空港に来ていた。妻は母との別れを惜しんで非常にシリアスになっており「私も一緒に日本に帰りたい」と言わんばかりにホームシックになっていた。私は泣きそうになっている妻の肩をそっとたたき、「そろそろ時間だよ」となだめていたその瞬間、後方から私の名前を呼ぶ声が聞こえた。NYには知り合いがそれほどいないので、私を呼んでいるのではないと思い、気にとめずにいたところ、今度は私のすぐ後ろではっきりと私の名前を呼ぶ声が聞こえたので、「誰だろう?」と驚きを感じながら振り返った。なっ、なんとそこにあのKさんがいたのです。Kさんと分かるや否や、懐かしいやら嬉しいやら楽しい気持ちが入り乱れながら、「えっ、Kさん!?Kさんじゃないですか!」と言って、妻と共にKさんに歩み寄っていた。
Kさんは不思議な能力の持ち主で、親父ギャグを言う以外にも、近くにいるだけで周りの人を楽しくさせてしまう能力がある。実際、さっきまで半泣きだった妻も、なぜか満面の笑みでニコニコしている。「えっ、あなたさっきまで泣いてたよね?」と妻に言いたかったが、敢えて言わなかった。遂先ほどまでの、あのシリアスムードはいったいどこへ?そんな感じを受けていたところ、隣りでは、もう既にKさんによる親父ギャグの速射砲が打ち出されており、妻が大爆笑している。ちなみに我々の横で母親は状況が分からず、しばし呆然としていた。
私の個人的な意見では、ドラマや映画で観るように空港とは通常とてもドラマチックな場所である。新天地へ赴く人は感傷の念にかられて切なくなり、また見送る人はしばしの別れを惜しんで寂しくなり、涙が非常に似合う場所である。私も妻もその流れに途中まで乗っていたのだが、Kさんの出現で違う流れへと吸い込まれていった。悲しいはずの涙は笑い涙になり、ドラマチックな場所は笑いありの楽しい場所へと変わり、今も楽しい思い出となっている。ただ、それ以後、夜、床に付く際、あのKさんとの突然の再会が思い出されて私を再び笑わせ、夜なかなか寝付けなくしており、とても嬉しい悩みである。
今回は紙面の都合上、Kさん以外の方とのエピソードを紹介できなくてとても残念であるが、 Kさんのように愛知県人会には素晴らしい方々がたくさんいます。その皆さんとの出会い、愛知県人会との出会いが私のNYでの生活を変えてくれるきっかけになったことは間違いないと信じてやみません。あの出会いがなかったら今の私はいないと思います。愛知県人会との出会いが、日々の生活のストレスから私を救い、リラックスさせ、全ての事を前向きに考えさせてくれるようになりました。そのため、愛知県人会との出会いは私の人生で生涯忘れることができないものであると心の底から思っています。
このエッセイを書いている今この瞬間も、次の愛知県人会が楽しみでなりません。
伊東 勇
※Kさんとは木村会長のことです。