第14回 石川 保典さん

このエッセイが掲載される頃には、3年間の勤務を終えて帰国の途に着いたころかと思います。皆様、いろいろとお世話になりました。この場を借りて、お礼申し上げます。

一人で国連や北中南米をカバーした3年間。その最後の仕事となったのが、普段は記事を書かないスポーツ、しかも中日ドラゴンズからFAになった福留孝介選手のシカゴ・カブス入団発表だったのは、ちょっとした僥倖でした。

会見後、シカゴ・トリビューン紙の記者に取材をした際、こちらが親会社の新聞社だと知ると、逆取材を受けました。短気で知られるシカゴのピネラ新監督について、星野元監督みたいだと聞いた福留選手が「それなら全然大丈夫だ」と、日本メディアとの囲み取材で話していたよと教えてあげました。すると、翌日の記事で何とそれが見出しになっていました。

「FUKUDOMEは、ピネラとノープロブレム」。選手年鑑で調べた星野元監督のことを「他チームの選手と喧嘩し、自軍の選手は怒鳴って殴る。審判には土を蹴り浴びせ、時に殴ることで有名な燃える男」と紹介し、「FUKUDOMEは、ピネラがホシノと似ているのなら好きだと語った」。日本の新聞では、こんな風に書く自由闊達さがないから、読みながら思わず笑ってしまいました。

日本に帰る楽しみの一つは、野球観戦。ただ、こうも次々と選手が大リーグへ流出していくと、日本球界の将来は大丈夫なのかと危ぶんでしまいます。強いドルに世界の資金が集まるように(最近は陰りが出ていますが)、魅力ある所に人が引き寄せられるのは致し方なく、12月に訪れたベネズエラでは、大リーグのシーズンオフに選手たちが帰国するのを待って、自国の野球シーズンが開幕していました。

そのベネズエラで、イタリア人と結婚して50年以上も住んでいるという日本人にお世話になりました。彼の娘さんは、スペイン政府が公募した環境保護プログラムのコンペで採用され、現地で統括チーフをしているそうです。スペインでは4等親以内にEU国籍の人がいれば国籍が取得できるので、永住する予定だそうです。ダブルナショナリティ(二重国籍)に門戸を開けば、良い人材も集まってくるものです。

その逆のケースが、私の友人のアルゼンチン生まれの日系二世です。日本人女性と結婚しても、日本国籍が取れません。血は日本人。日本人であることに誇りを持ち、父母の母国のために何か役立てればと思っているのに、いまだに「外国人」。アルゼンチンから何度も足を運んで頼んだ母に、役人は無理難題の書類を要求し続けたそうです。彼はメキシコ国籍を取って、メキシコに会社を興しました。

そこまでして守るべき、日本の「国籍」って何でしょうか。

これはニューヨーク総領事館の櫻井本篤大使からうかがった話ですが、米国東部のある町の日本人補習校には、日本人が米国人と結婚して生まれたハーフの子女が設立当初から数多く通っているそうです。駐在員の子女には教科書は文部省からの無償提供なのに、なぜかハーフの子女は有償。それは、補習校の目的が、帰国後に備える日本人教育だからです。米国で生まれ、日本人ではないのに学びに来ている彼らは、将来、日本にとって大切なアセット(財産)になるはずなのに、そうした視点が欠けているのかもしれません。櫻井大使は彼らを大使公邸に招いて励ましたそうで、「最近、忘れかけていた日本とのメンタルなつながりが戻ったわ」と言われたそうです。

世界の寿司・アニメブームもいつかは終わるでしょう。人口が減少し続ける日本は早晩、純血主義では立ちゆかなくなるに違いありません。日本を飛び出してNYで活躍する愛知県人がたくさんいるように、金髪で目が青い「日本国籍」の人が日本で活躍する日を、個人的には見てみたいと思うのです。

石川 保典(中日新聞)

※今回の寄稿にあたって、ご本人から当会へ2007年の中日ドラゴンズの日本シリーズまでの奇跡をまとめたDVDを2枚寄付して頂きました。無料で会員の方へ貸し出し致しますので御希望の方は当会までご連絡ください。なお、このDVDはリージョン2(日本)対応のDVDプレイヤーが必要となりますのでご了承ください。

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