15回目の愛知県人会リレーエッセイを書かせていただきます、俳優で映画監督の鈴木やすと申します。1991年の6月、24歳の夏にニューヨークに降り立って今年で20年になるということで、そろそろニューヨークでの生活の方が名古屋での生活よりも長くなる日も近づいてきました。
二年ほど前、 愛知県人会のお花見ではありませんでしたが、セントラルパークで行われたお花見の席で隣り合わせたインテリアデザイナーの女性が名古屋出身だとわかりました。226万5,864人もの人口の名古屋市ですから、ニューヨークで名古屋出身者と出会ってもさほど驚きませんが、この時ばかりは驚きました。
「名古屋ですか、僕は熱田区なんですよ」
「私も熱田区なんです」
「ほんとですか? 僕、六番町なんですよ」
「ええっ!! 私、二番町なんです!!」
なんと、小学校も中学校も同じ学区の町内の方でした。
この時も、小学校の話、彼女の実家のすぐ近くに住んでいる僕の親戚の話など、超ローカルな話で二人だけで盛り上がってしまいました。
この時に彼女が言った言葉が今でも忘れられません。
「あの辺りの近所の人は全員、熱田神宮の神様で繋がっているから、いつかみんなあの辺りに戻っていくんですよ。」
僕がいつか、熱田区に戻っていくかどうかはわかりませんが、日本三大神宮のひとつ、熱田神宮、通称「熱田さん」の神様でみんなが繋がっていると想像するのは、本当に心がジーンとします。
お宮参り、 七五三、 初詣、 夏の初めの尚武祭、相撲大会、 人生の大切な門出には必ず熱田さんにお参りに行きました。
境内にある樹齢千年の大楠の御神木には、「神様の使い」と言われる真っ白な蛇が住んでいて、いつもその御神木の根元には卵がお供えしてあるのですが、めったに姿を現せてくれないお使いの方で、存在自体が伝説となっています。
結婚の報告をしに11年ほど前、アメリカ人の新妻を連れてお参りに行った時には、なんとその真っ白な蛇が大きな幹に開いた穴から、ちょこんと顔をのぞかせてくれました。
今でもブルックリンの我が家のアパートでは、神棚に熱田さんのお札を奉って、朝一番には今日も元気で健康で目が覚める事が出来た感謝、夜の就寝直前には、今日一日、健康で家族全員安全で過ごせた事への感謝を必ず語りかける事を心がけています。
名古屋の実家の両親は熱田区から緑区の郊外に引っ越したので、里帰りする時は緑区の両親の家に帰ります。緑区の実家の近所に高台から名古屋の街がほとんど見渡す事のできる「瀧ノ水公園」というところがあって、滞在中は、毎朝その公園までジョギングして、鈴鹿山脈を背に受けた名古屋の街を見渡すのが楽しみのひとつです。
僕を生んで24歳まで育てていただいた名古屋の街と僕のエネルギーは、本当に今でも繋がっているんだなと心から感じる瞬間です。
僕の人生を楽しく導いてくれている素晴らしい出会いもニューヨーク愛知県人会で知り合った愛知県人の方々でした。
ニューヨーク演劇界の大先輩でご本人も名古屋出身の仙石紀子さんに誘われて2008年の暮れに初めて伺ったウェストビレッジの「博多とんとん」で開催された愛知県人会の忘年会では、毎回楽しいイベントの幹事を努めて下さっている河野洋さんと出会いました。
お話を伺うと2週間違いの誕生日という事ですっかり意気投合しました。
映画、演劇界と音楽業界という親戚同士のような業界なので、河野さんと出会って僕の仕事の幅もずいぶん広がりました。
今では、河野洋さんともう一人のフィルムメーカー古川こうすけさんと僕の三人で“New York Japan Cinema Festa” と題した映画祭を企画し今年の夏から始めようと現在、準備に追われています。
大震災で傷ついた今の日本と9・11同時多発テロを経験しながら力強い復興を果たしたニューヨークの街を映画というメディアを通して繋げる事で、少しでも活性化のお役に立てればと思います。
2009年の6月にクイーンズのビアホールで行われた愛知県人会の親睦イベントでは、ヨガの先生をしていらっしゃるスパドーニゆかりさんと出会いました。その頃、よくヨガ関係の方々と出会ったので、これもなにかのご縁と、その週末にチェルシーにあるStill ZENDOというスタジオでのゆかり先生のヨガクラスを受けにお伺いしました。あまりにも気持ちよかったそのアイエンガーヨガを受けた経験がきっかけとなって、僕はそれ以来どんどんヨガにはまっていき、今ではヨガとピラテスのインストラクターの資格を取得して、俳優、映画監督をする傍らで毎月一回、チェルシーのゆかり先生のクラスでヨガを教えさせていただいています。
24歳で単身ニューヨークにやってきた頃は生意気にも
「こんな、ぬるま湯に浸かっとるみてゃーなとこには住んどれぇせんがや」
と意気込んで飛び出した故郷の名古屋に、実は今でも温かく見守られて育てられているんだなと思うと、愛知県人としての誇りを持ってこれからも世界でがんばろうというモチベーションが湧いてきます。
今年の9月には我が家に初めての娘が生まれます。
今から、熱田さんへお宮参りに行くのを楽しみにしている今日この頃です。