「名古屋人―食文化」
愛知県名古屋市からニューヨークに出てきて早16年が過ぎてしまった。そんな言い方をするとなんだか年を取ったような気にもなるが、ニューヨークにはいつも新しいことがおきていて、時間を感じさせないアップビートであるところがニューヨークのいいところなのだろう。毎日を過ごしているとスピード感が麻痺してしまい、自然に心や体が疲れている。逆に12時間もかけて名古屋に帰っても、帰った瞬間に心がホットする。何故だろう。名古屋は皆が、気がついていないくらい魅力ある町だと思う。文化と経済が平均的に融合された都市だと思う。自分が名古屋をこよなく愛する理由は、やっぱり食べ物。実家が飲食店を経営していたからだろう。食べるのはやっぱり大好き。京都や大阪はもちろんの事食べ歩きはNYでも大好きだが、やっぱり自分の生まれ故郷の名古屋にも名物が沢山ある味仙ラーメン、ひつまぶし、味噌煮込み、横井のスパゲティー、味噌カツ、昭和高校ラーメン(知ってます?)金粉お好み焼き、海老せん、ういろ。美味しいものだらけ。やっぱり私はデパートの食料品売り場に足が運んでしまう。
世界中どこでも行く時必ずする事は、スーパーマーケットめぐり。これは各国の生活が一番わかりやすい。名古屋でも私の大好きな事。スーパーで食材をしこたま買い占めてNYへ帰るのが楽しみ。インスタント食品や加工食品の味、鮮度すべてを取っても世界に類がない。スナックの豊富さだって、世界一。日本もフランスもイタリアも食文化の国であるのに間違いない。
16年前にニューヨークに出てきて一番感じたのは食事のまずさだった。最初の3ヶ月は何も口に入らずひたすら、日本から持ち込んだ日本食をせっせと食べていた。横でアメリカ人がテイクアウトのチャイニーズとコカコーラを一緒に食べているのを見て気分が悪くなったものだ。慣習とは恐ろしいもので、知らないうちに自分が同じ事ができるようになっている。太るのもあたりまえ。米国の食生活はめちゃくちゃだ。どんな事をしても太らなかった自分が簡単に10キロ以上も太ったのを見て自分でも驚いてしまう程だ。
自分が日本人でありながら、NYで16年も生活してしまうといったい自分は日本人なのだか何人と呼んでいいかわからない。でも一言でいえば私は名古屋人なのだ。みゃ~みゃ~と言われて何だか嬉しくなる自分は本当に単純だ。September11で会社が無くなり、何も考えずに独立、起業した。生まれて初めてエンパイヤの屋上に上った時にいつか必ず起業したいと思った夢も諦めずに最後まで続ければこんな機会でやってくる。
本当に夢は叶うと思う。謙虚にして驕らない。最後まで諦めない。だれよりも努力する。生きている事に感謝する。毎日反省。利他の心もつこと。感性的な悩みをしない。
今一番大切にしている事だ。起業してから思った。自分だけでは何もできない。私は周りの人に支えられて生きてきた事を初めて身をもって感じた。会社がなくなった時、クライアントの皆が連絡を入れてくれて「仕事があるから、引き継ぎやって欲しい。頑張れ!」といわれて涙が出た。こんな形で応援してくれたクライアントには一生かけていい仕事をして行きたいと思った。
NYで広告代理店を開いて4年目を迎え、去年は世界広告大賞銅賞を受賞した。60カ国以上の参加で4000件以上の応募の中の3位である。嬉しかった。自分を信じてついてきてくれている社員が一番喜んだ。そして最後まで諦めなかった「メトロポリタン美術館との契約」だ。2年の歳月をかけた長い、長いプロジェクト。断りの正式の手紙までもらったが諦めなかった。直談判に出向き、「私は最後まで諦めたくない。これは一生かけてもやりたい。」と涙ながらに熱弁していた自分がいた。メトロポリタンのダイレクターが「君の情熱に負けた。そこまで言うならやろう。」契約書にサインをしてくれた。信じられなかった。でも夢は本当に叶う。本当にいいことであれば。仕事の大切な事。真実・誠実さ、クライアントの為に、皆の為になるような仕事をしなくてはいけない。自分だけが儲かるなんていう事は決していい仕事は出来なし持続性が無い。本当にいいものをいいと言ってくれるところがアメリカの良いところだ。蟻のように小さな会社でもこんな風で採用が決まる事もある。その代わり一流以上の仕事をしなければ認められない。一流とは、どこから見ても、完璧な仕事だと思う。手の切れるような仕事。私の尊敬する人生の指針ともいえる稲盛和夫氏のお言葉だ。私は職人が大好きだ。父が職人であったように、こだわりを持ち一流の仕事をする。これこそ、日本人が持つ特有の文化だと思う。アメリカ人に納得させる力を持つ。即ち、彼らが想像も出来ないくらいの技術やサービスが必要という事なんだ。私にも出来た。だから皆にも出来るんだと社員に言っている。夢をもって仕事をしよう。インターンだろうがパートだろうが皆必死で働いている。皆楽しいと言ってくれた。厳しさの中にある人間が一番楽しんでいる瞬間。それは仕事を通しての達成感だと思う。クライアントの仕事を通しイベントでアメリカ人のお年寄りから手を握られて「ありがとう」と泣いて感謝をされた。今まで仕事をして他人にそこまで言われた事がない特にこのアメリカで。「貴方たちは、国境を越えた本当の意味の大使よ」と言っていただいた。感謝したい。こんな気持ちになって仕事ができるようになったのは、仕事をする意味を初めて理解できたからだと思う。
そして2年前から提案していた日本食文化の企画が採用された。嬉しかった。日本を宣伝できる。それも食だ。料理人の父がこだわった食材、調理、味。アメリカでは日本食は空前の大ブーム。1年の歳月をかけて「Flavors of Japan-Gastronomic Discovery」を企画した。どのようにイベントを興してPRするかのマーケティングプランを練りに練った。アメリカのテレビ局5局以上も取材。各メディアに掲載された。この3月4日から10日まで日本食で賑わった。この機会をくれた方に、この場を借りて本当に感謝の意を表したい。一番嬉しかったのは、日本から出展して来た各企業の担当者がテレビの前でジョークたっぷりで片言の英語でも必死で商品の宣伝していた。涙が出てくるくらい感動した。嬉しかった。人間の必死な姿は心を打つもである。アメリカ人TVクルーが皆、味見して驚いていた。「美味しい!」だれもが言った。名古屋から出てきていた御酢の会社、味噌、胡麻油。その他、日本全国から来た食材の企業、どの会社も今後大きくなると実感した。頑張って欲しい。必ず成功して欲しい。私はたぶんこのような会社をお手伝いをしていかなければならないと使命間を感じた。体の中からまた声が聞こえた。「頑張れ!日本」古いコピーのようだけど本当だ。
父がこだわった食に私もこだわりを示している。日本食は繊細でかつ美味しく、健康的である。この食文化は更に奥深く、素材、下拵え、調理方法、保存方法、5つのウマミ、プレゼンテーション、空間、器などを含めたものが日本食文化と言える。これは仏教、茶道の歴史からこのようなものが来ているのだ。日本人としてこの和を忘れる事なく、毎日精進していきたい。
市原千香子 CEO & President
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